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Le Nocturne

深淵を覗く時

浅草

雑記

この土日部屋から一歩も出ないってのもありだけど、なんだか外の天気があまりにも良くて歩かないのは勿体無いと思った。
思い立った瞬間に私は楽器を片付けてケータイと財布と鍵だけ持って外に出ていた。行く宛なんてどこにもないけど。太陽の光も相まって今日はスカイツリーが一段と白く聳え立っていたものだから何となくそこに寄せ付けられるようにして私は歩き出した。
私が住む入谷にはまあまあ寺院や墓が多い。道の暗がりに広がる鬱蒼とした木々の中に溶け込む寺院は、まるで現世ではないようなあの世じみた場所であり、固く沈黙する墓を見ているともう少し先で約束されている人生の終点を見ているようで。いつ私はそちら側に入るのだろうな。そうなるとあのでっかいスカイツリーなんて霞んで見えてきて、いつしかあれは人類の叡知の結晶と言うよりも、私には巨大な墓石のように見えた。

暫く歩くともうそこは浅草だった。こんなところまで来るはずじゃ無かったけどもう少し、もう少しと思いながら歩いていたら人混みにぶち当たった。
正直休日の浅草なんて選択肢として間違い以外のなにものでもない。人混みが嫌で迂回に迂回を重ねた結果浅草らしいものなんて一つも見なかったし買わなかったし、こんなに人間がいるのに誰も私を認識するやつはどこにもいないからより一層自分の孤独を引き立てただけだった。

うん、やっぱり私には裏路地が似合っている。ふと香る線香の匂いとか、光と陰の境界が身体性を持って感じられる。冬に夕方はないと思ってたけどそんなのは嘘だ。ちゃんとここにある。

そんな時、ふとサティの曲が流れた。良い。分かってるね。サティは不思議だ。光と陰の境界、この世とあの世の境目、生と死の間。それを音として具現化したような音楽。まるでそれはオセロの白と黒のような表と裏のような、2つは一番離れたところにある存在なのに一番近いところの存在でもある。私は音楽を介してどちらも行ったり来たり。今もこうして昼と夜を行ったり来たり。

帰りにたい焼き一つ買って帰った。淡い水色の空に白い目を持つ月が首をかしげて世界を覗き込んでいた。白い墓石を背に私は家路に着く。